年収800万円が本当に幸福のピークなのか?「幸福度が年収で頭打ちになる」という元論文を読んでみた

科学

なるふぉです。

よく、「アメリカの研究によると、年収とともに幸福度は向上するが、年収800万円を超えると幸福度は頭打ちになる」ということを聞いたりしますが、

その「アメリカの研究」って、誰の何の論文なんだろう?

本当にそのような結果になっているのだろうか?

と思ったので、元論文を読んでみました。結果、そんな単純な話ではないということが分かりました。

※今回論文の領域は専門外のため、解釈の不備があればご指摘お願いします。

元論文:Daniel and Angus (2010)

おそらく元論文はこちらだと思われます。

https://www.pnas.org/content/107/38/16489

タイトル:”High income improves evaluation of life but not emotional well-being”
(高い所得は生活評価を向上させるが、感情的幸福は向上させない)
著者:Daniel Kahneman and Angus Deaton
PNAS September 21, 2010, 107(38)

2010年の論文なんですね。

論文の要旨の一部を引用すると、

Emotional well-being refers to the emotional quality of an individual’s everyday experience—the frequency and intensity of experiences of joy, stress, sadness, anger, and affection that make one’s life pleasant or unpleasant. Life evaluation refers to the thoughts that people have about their life when they think about it.

Daniel Kahneman and Angus Deaton, PNAS September 21, 2010 107 (38) 16489-16493; https://doi.org/10.1073/pnas.1011492107

主観的な幸福、というのは次の2つに区別されるそうです。

A:感情的幸福(emotional well-being)
= 個人が日常で抱く感情の質(喜び、怒り、悲しみ、ストレスなど)

B:生活評価(Life evaluation)
= 自分の生活について考えた評価。最高な生活か、最悪な生活か。

この2つが、世帯収入(household income)に対してどのような傾向があるのかを調査しています。

オープンアクセス論文ですが、手法等内容を詳しく説明すると著作権とかややこしいので省きます。興味のある方は、誰でも読めるようなので、元論文を読まれることを推奨します。

下の引用図がメインの結果だと思われます。

Daniel Kahneman and Angus Deaton, PNAS September 21, 2010 107 (38) 16489-16493; https://doi.org/10.1073/pnas.1011492107

<図の解釈>横軸は年収(単位ドル)。各線は、ポジティブな感情(Positive affect)、ブルー感情でない(Not blue)、ストレスのない(stress free)状態であった割合を左縦軸で示してます。また、キャントリルのはしご(Ladder)は0〜10の11段階で現在の生活の主観評価平均を示しています。0が最悪、10が最高の生活(右縦軸)。

確かに、75,000ドルより高所得では、(A)感情的幸福である指標は頭打ちになっています。これは一般に言われる主張にあっています。したがって、日々感じる幸福感は800万円程度で上限に達し、それ以上はほぼ変わらないといえそうです。

一方で、(B)生活の評価であるキャントリルのはしごの平均値は頭打ちにならず、高所得ほど向上しています。この「キャントリルのはしご」は幸せを測る国際標準的な指標のようです。自分の生活を振り返った時に感じるトータル評価は800万円では頭打ちにならず、高年収ほど高くなることがわかります。

参考:https://www.fpu.ac.jp/rire/publication/column/d153868.html

幸福度の見方によって、収入との相関が異なる

この論文の結果・議論から考えるに、一般に言われる「800万円以上は幸福度は上がらない」というのは、半分正しく、半分間違いでないかと考えます。

幸福度という抽象的なものを、どの側面から見るかで収入との関係性が多少異なるといえそうです。どちらにしても高年収に越したことないことは言えますが…。

元論文を読んで新たに気づいた点

論文を読んでいて、きになる点がいくつかありました。

2つの指標の違い

(A)感情的幸福と(B)生活評価はその定量化の方法が異なっています。(A)は2分法、(B)は11段階指標でアンケートを取ってます。

なので、(A)と収入の関係、(B)と収入の関係を見ることはできますが、「(A)と収入関係」と「(B)と収入関係」を比較できるかは疑問が残ります。

一人世帯か二人以上世帯か?

元論文では「世帯収入」で議論されており、中には結婚している世帯、子供のいる世帯、独身世帯も混ざっています。

そうなると、構成人数で生活に必要な金額が結構異なってくると思われます。独身世帯と二人世帯で感情的幸福が頭打ちになる収入額も異なってくるかもしれません。

似たような研究が他にないか?

この研究の結果は上記のようになってますが、同様の研究は異なる国や属性の人で行われているものはあるのでしょうか。その場合、結果がどのようなものなのだろうか。

複数の論文で同様の結果が得られた場合、今回の結果は比較的信頼できるものだと言えそうです。

まとめ

今回は元論文を読んでみることで、「年収800万円以上は幸福度は頭打ちになる」という話は、そう簡単な話ではなく、「幸福度の見方・幸福度の定義による」ということがわかりました。

「ある研究によると〜」や、「OO大学の論文では〜」という要約された結論のみを信じているだけだと、実際の主張とズレた解釈をしてしまう可能性があります。ぜひ元論文を当たる習慣をつけましょう。

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