なるふぉです。
一年くらい前から,「量子力学を指導・コーチングする」という肩書きの人をネット上で見かけた.量子力学という言葉を使って,スピリチュアルな話をする人のようだ.コーチ、とも言うらしい。
「コーチ」というからには、さぞ量子力学に精通しているのだろう。
試しに動画を見てみた
「こんなのに騙される人がいるのかよ」と思っていたが,受講生は5000人くらいいるようでびっくりした.
今回は「どのようにして彼は人を騙しているのか」を観察するため,彼の動画を試しに見た.見てみると非常にもやもやした気持ちとなった。
彼の”アカデミー”の説明ページにある動画である(限定公開らしいのでURLは貼らないでおきます).
まず,話の導入として,誰でも理解できる話から入っている.彼の話を抜粋すると、
「科学というのは再現性のあるものだ.万有引力の法則で,木からりんごが下に落ちるのはどこでも同じ.」
「量子力学は,目に見えないミクロの世界を扱うもの」
などなど.まあこれは科学コミュニケータが子供に説明するときでも違和感ない.特に科学では「他の人はわからんけど、私がやれば成功しました」というものは扱わず、「誰でもいつでも、正当な順序で実験すれば同じ結果が得られる」という再現性が重要である。そして、古典的な力学は我々の目に見える大きさのものを描写するのに対し、より小さなスケールでは古典力学よりも、量子力学的振る舞いに支配されている。
「健在意識とか潜在意識って目に見えないですよね?」
「こういった目に見えない世界を扱うのがまさに量子力学です」
ここで話が急カーブしている…!
最初の冒頭の話は、
「目に見えない(ほど小さいけれど,確かにそこに実在している物理の)世界」
を話していたのに,今度は、
「目に見えない(というか物理的に存在しない意識とか思考の)世界」
に話がすり替わっている.
さらに,話がうまいことに,聴衆に質問するのもテクニックなのではないか.
質問されることで,話が遮られ,視聴者の意識を一旦ずらす(まるで落語の時そば).
しかも自明なことを「ですよね」と念押しされることで,「確かにそうだ.この人の言っていることは正しい」という意識が働くのではないかと思う.
そのあとは,定義されていない言葉「意識のエネルギーのベクトル」,「DNAのコードの数が64種類なので64回同じ質問をする」などが出てくる.
専門用語を並べ立てて科学的な雰囲気をつくっているが,考えるほど話の一貫性がなく論理の飛躍がひどい。
同じ数字を使って,信憑性を(見かけのうえで)向上させている.
というかDNAの話をしているけど量子力学は?
科学の基礎知識の少ない方が見終わった後にはおそらく,
「なんか,納得感があった.科学的に正しいそうだ.人生を豊かにできるそうだ」
というふわっとしたイメージができるように,動画が作られている.彼自身の話し方も工夫されていて,(見かけ上の)説得感も補強されているのであろう.
量子力学スピリチュアルの怪しさの見分け方
科学的に正しそうかどうかを見分ける方法として「論理の飛躍がないか」「無謀なアナロジーがないか」がある。
上でも書いたように,
「目に見えない世界」として,「①非常に小さいスケールの話」と「②物理的に存在しないもの」を混同している.
科学でいう量子力学は①の物理的現象を記述する科学であるのに対し,
彼が話しているのは②についてであるので,量子力学は当てはまる保証はない(というか当てはまる方がおかしい).
量子力学は彼のいうように「物理(物の理)」なので,それを思考とかスピリチュアルに当てはめるのは非科学的である。アナロジーが大きすぎてひどい。
また,「シュレディンガーの猫(シュレーディンガーの猫 – Wikipedia)」の例でよく見られる誤解として,「見るまでは,猫が死んでるか生きているか確定しない.つまり人間の意識が結果に影響するんだ!」みたいな論理の大幅な飛躍をしている物も見られる.
こう言った「科学的根拠」に基づく物で,前半は科学的に正しいが,後半で論理的飛躍(や,無謀なアナロジー)がよく見られるので注意したい.(例: 「ネズミの実験ではAだった.だから人間も(まだ実験されてないけど)Aにちがいない.なのでこのA’を買いましょう!」)
エセ科学か判定するには,「論理の飛躍はないか」「無謀なアナロジーではないか」「科学的根拠は根拠たりうるか」を批判的に考える癖を育てる必要がある.
おそらく,科学という響きが大好きで,中二病を患っている中学生の頃であれば,自分も騙されていたかもしれない.
なぜ彼みたいな人が生まれるのか
一応物理系の大学院を出て,量子力学を真面目にやってきた自分からすると,なぜこのような人間が生まれるのか非常に疑問である.
科学を真面目にやって修士まで出たのであれば,間違えてこのような思考になるとは考えにくい.むしろ故意なのでは?
アドバイザーという仕事は大変尊敬できる仕事であるが,
批判したい点は,科学的根拠がないのに「科学的根拠」を取ってつけるやり方である.
顧客は科学的に正しい方法を知りたいのに対し,それを確かめる能力・術がないのをいいことに口からでまかせをいうことが許されて良いのか.
立派な詐欺行為なのではないか.
「科学的根拠」を謳う人間には,テレビに出るような有名な人も数多くいる.
そういったエセ科学を判定する力をつけられたのも,科学を正当な方法(教育・大学など)で学んできたからこそだと感じた.
しかし、今の日本では,量子力学スピリチュアルとしての人生と,量子力学を真面目に研究するポスドクとしての人生,どちらの方がお金を稼げて豊かな生活ができるのだろうか…。
そんなことを考えるとひどく悲しくなる。
コメント
最後の一文、悲しくなりました。
本当にそのとおりですね。研究者に優しくない国です。
量子力学スピリチュアルを広めたのは、松丸政道先生というれっきとした物理学の先生のようです。
東大大学院卒です。
経歴もちゃんとしている物理学の先生がスピリチュアルを広めているため、一般人は信じます。
この方、研究者の界隈ではどう思われているのでしょう。
コメントありがとうございます。
松丸さんという方は初めて聞きました。1957年からの博士の学位論文のデータベース(http://gakui.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/)を調べてみましたが、松丸政道さんという方の論文は出てきませんでした。芸名とか、かなり高年齢の方かもしれませんが。
界隈でそのような話をすることは少ないです。
雑談、twitterで少し話題になる程度ですね。
もちろん、否定的な見方です。
本名ですよ。学生の頃は悪魔メイクのKISSの音楽にハマっていましたね。家系が陰陽師とか、東大院卒とかの話は聞いた事が有りませんよ。
目的はただのお金儲けですよ。
動画を観ましたが、スピリチュアル系、自己啓発系、人間心理学などが混ざった話です。
今更何を…というような。
ただ、本気で仕事上必要で量子力学を学びたい方達がこの方の本の題名に量子力学とつけるので間違えて購入してしまったという方達がいるのです。アマゾンのレビューでそれを書いているようです。
スピリチュアルは目に見えない霊的な世界でありそれを量子力学に結びつけて本を書いているらしいです。
儲かれば何でもありの世界です。
そのような金儲け主義で何でもありの人が人の心の弱味に漬け込んでセミナーを開いたり本を書いたりしているだけです。
量子力学も真理も知らない人がお金を注ぎ込む世界です。
本物ならば、自分の履歴や陰陽師?だのそのようなことを自慢してまで言わないです。
何故ならばそれはただの傲慢、慢心だからです。
本物ならば何も語りません。